Make Believe Melodies Logo

Category Archives: Music @ja

Homemade Escape: i-fls

最近ツイッターで村上春樹についての会話をよく目にします。激しい議論の中、支持する人は彼の表現する「美しい日常」を絶賛しているようですね。確かに村上春樹特有の、ありふれた日常をいかに美しいものにするか、という表現は素晴らしいと思います。私もそのような感性は好きですし、日本のアーティストのi-flsも普通だったら忘れ去られるようなテーマを音楽を通して表現しています。物やサービスがテーマだったり(“Twitter,” “Vocaloid,” “Family Restaurant”)自然がテーマだったり(“Summer Breeze,” “I Saw Raindrops”) 女性の名前が含まれていたり(“Satomi,” “Chiaki Gazed You,” “Yui”)。Garagebandで作られたボーカルレスな楽曲達は、驚く程少ない数の楽器から構成されていて、短くもノスタルジック。まるで気持ちをスケッチしたかのような。i-flsはここ数ヶ月だけでも数多くのリリースをしているのですが、Enhanced GardenというEPに収録されている、飛び跳ねるような”No Adventure”、幻想的な”Stardust”、そしてまるで好きな女性が自分を見つめているような気持ちにさせてくれる”Chiaki Gazed You”がオススメです。”Chiaki Gazed You”は嬉しくも不安なあの気持ちを上手く表現できているのではないでしょうか。i-flsの楽曲はまるで日記のようにシンプルで、日常を美しいものとして表現しています。

New Figure: Come Down EP

Figureというアーティストはご存知でしょうか?この日本アーティストのBandcampのページを見てみて下さい。情報量の多いサイトですよね。どうやらアメリカツアーをするみたい!…ってそれは違うFigureでしたね。同じ名前を使ったインディアナ拠点のビートメーカーがいるみたいです。でも日本のFigureも新EP、”Come Down”でもっと注目を集める事でしょう。

このEP以前のFigureはどんな感じだったかというと、Teen Runnings登場後からすでに数年間も日本のインターネットを埋め尽くしている、やかましくファズの掛かったベッドルームサウンドを奏でていました。その過去の作品達は、厳しく言えば録音のクオリティが低かったり、ノイズの実験のような作品ばかり。でも今回の”Come Down”では、そんな遊び心とフックのあるメロディーが上手く調和しています。嵐のような轟音もバランスよく効果的に感じられ、”Soft Path”なんかがその「グッドバランス」を象徴してるんじゃないかな。今まで同様、いかつい生楽器の音が大半を占めているものの、やわらかいキーボードや、ノイズをくぐって出てくるボーカルが見事(洋楽で例えるならDIIVでしょうか)。”Place”は幻想的な曲で、ギターやベースもその雰囲気を崩しません。一方で”Come Down”は逆に歪んだドラムが印象的で、キラキラしたキーボード(木琴みたいな音)が上手く混ざっています。Come Downは凄くスローな”My Side”で終わるわけなんですが、この曲はギターストローク、キーボードと淡いボーカルのみのシンプルな構成。驚くほどの成長を遂げたFigureの自信作を締めくくるにはもってこいの美しい曲です。試聴はこちらから

Sailing The Seapunk: Umio’s “ゆのっちと$∑ÅφÜ燔 (“Yunoochi To Seapunk”)

Seapunkは本当に良い音楽を追求したジャンルなのか、一部のアーティストの集まりが楽しむ為のジャンルなのか。ツイッターのハッシュタグにおいてもそんなに目立っていなかったSeapunkですが、ジャンルの持つ個性的なサウンドに魅了されたアーティストも勿論います。ここ日本で活動しているUmioもそんなイルカ好きの一人で、新曲のタイトルも”Yunoochi to Seapunk”といいます。水の音など使われているものの、そこまでSeapunkというわけでは無いような気はするのですが、興味深い曲なのは確かです。アニメと思われるサンプルから始まり、若干こもりがちでゲームチックなシンセが入ってきます。曲が進行するにつれてドラムンベースから調のパーカッションや、ニューエイジ風の展開も。アヒルのオモチャを握りつぶして音を出したようなこの曲は、何と呼べば相応しいのかも難しいところですが、新しい発見のある貴重な5分間となる事でしょう。試聴は以下から。

New HNC: “I Will Make You Sad”

HNCは長く奇妙な道のりを辿ってきています。彼女のHazel Nuts Chocolateとしての活動は2000年に始まり、Plus-Tech Squeeze Boxや、中田ヤスタカのプロジェクト、Capsuleの作品にも参加してきました。ダンスビート重視というよりは渋谷系みたいな。彼女の初期の作品やコラボレーションは、可愛らしくアップテッンポでエネルギーに満ちていて、2009までの作品にはそのような空気感を特に聴く事ができます。”Cult”では今までのキュートさはそのままに、ドラムンベースからの影響も。その後彼女はしばらく活動をストップし、(Love And Hatesへの参加以外)一年程経って”I Dream I Dead“をリリースしました。楽しくポップなHazel Nuts Chocolateは姿を消し、パラノイアや不安を表現しているような作品です。キャンディーや猫について歌っていた長い年月が一晩の悪夢によって吸い込まれたかのような印象。この曲は音楽的にとても深く、今までの彼女の最高傑作と言えるでしょう。

新曲 “I Will Make You Sad”も過去のHNCから再び一歩離れているのですが、オープニングに重いドラムや寂しげなピアノが使われていて、”I Dream I Dead”よりも更に希薄な印象です。その後増えるシンセも曲を独占するわけでなく、全体の脆く儚いイメージを崩しません。曲に入ってきた直後の彼女の曲はミックスの奥深くにあり、前へは出てこないものの、”drinking your tears”というような言葉は聴こえてきます。コーラスでは曲のタイトルを繰り返してるのがはっきり聴こえますよ。HNCのキャリアは長い間その瞬間の感情の表現、”猫の可愛らしさ”であったりしたわけですが、”I Will Make You Sad”が意味しているように、今の彼女はより複雑な感情を表現を可能にしています。HNCのアーティストとしての大きな前進を是非堪能して下さい。試聴は以下から。

Youth Genius (NOKIES! Solo-Member Project)

関西のロックバンド、NOKIES!がデビューフルアルバム、”Between The Blinks”をFlake Recordsとタワーレコードからリリースしました。Los Campesinos!のようなインディーポップが特徴的な彼等でしたが、今作品では良い意味で幅広い層から好かれそうな雰囲気。タワーレコードからのリリースも違和感なく、これからバンドはどんどんメインストリームなロックバンドとして成長していきそうですが、ボーカルのクメユウスケはそのような方向性とは違ったものをYouth Genius(Youth LagoonとPerfume Geniusの融合みたいな感じかな?)として表現しています。

Soundcloudには、”All of the songs is inspired by peculiar atomosphere created by the streets and youth of Kyoto city,”(京都の若者やストリートが持つ独特な空気感が楽曲に影響を与えている。)と書かれているのですが、その通り京都の若者達は個性的なスタイルを表現していて、Youth Lagoonは少しばかりのエレクトロ要素を持つインディーポップと、跳ねるようなファンクを融合していて、哀愁とワイルドさのバランスを上手く保っています。”Explains”は直球勝負なインディーポップで、センターに配置されたキーボードがとても良い存在感。”Behind You”と”Stay Above The Clouds”は多くの打ち込みが使われていて、今年に国内でリリースされたインディーポップの中でも特に目立っています。そして”We Keep Kissing”はクラブ的アノラックサウンドが、The Brixton Academyが本気を出してダンサブルな楽曲を作ったかのような印象。Youth Geniusみたいなプロジェクトがあることで、NOKIES!の方向性もどんどん進化していきそうですね。