Stuff We Missed 2012: CRZKNY And Atomic Bomb Compilation

2012年12月16日、日本の現状を一変させる可能性のある重要な選挙が行われます。もちろん大きな話題になっていますよね。しかし、それとは裏腹に、ポリティカルな音楽はあまり聴かなかったような気がします。原発に関する問題は未だに議論されていますし、大勢の人が”No Nukes!”というサインを掲げてデモに参加していましたが、抗議の音楽はごくわずかしかリリースされなかったのではないでしょうか。そのような中で、Goth-Tradの”New Epoch”は福島の問題に関しての憤りを表現していて、音楽を通して意思表明をした貴重な作品のうちの一つと言えるでしょう。しかしもう一人のダンス・ミュージックプロデューサーも、今年一番とも言えるほどアンチ・原発な作品を発表しています。 広島のCRZKNYは主にjukeやfootworkといったジャンルの音楽を通して原発について問題提示しています。”I HATE JAPANESE NUCLEAR MAFIA” とは彼のBandcampに記された強いメッセージ。無料で提供されている彼の数々のEPにも同じく強い気持ちが込められています。サンプルが多く散りばめられた”Struggle Without End”は、Casetteboyに似たスタイルなものの、日本の政治家や福島関連のニュースからのサウンドバイトやサウスパークからのサンプリングも使った”FUCK JAP GENPATSUはかなり強烈です。このEPのほとんどがこのような内容なのですが、下に敷かれた楽曲もさらなる奇妙さを足しています。ファンキーかつ不気味な”Radiation”ではボーカルサンプルが奇妙かつ不自然に加工されていて要注目です。CRZKNYが8月にリリースした”ABC EP (Atomic Bomb Code)”ではサンプルよりも楽曲重視に。1曲目の”1102″は今年聴いた曲の中でも圧倒的に気味の悪い曲。不穏な電子音の上で奏でられる風鈴は、まるで荒廃した場所の記憶のよう。”The World Five Minutes From Now”と”Statement”は早めの曲で、Juke特有のユニークは陰に潜み、激しく、かつ混沌としています。”ABC EP”はGoth-Tradが”New Epoch”で表現した事に、より緊急性を加えたような作品。Goth-Tradは”Departure”、CRZKNYは”Escape”という曲を持ち、共通の論点も聴く事ができるのではないのでしょうか。ダウンロードはこちらから。 “ABC EP”に収録されている楽曲は、”Atomic Bomb Compilation”という、8月にリリースされた長崎と広島についてのjukeコンピレーションにも収録されています。このコンピの曲の多くは不快さや恐怖を表現していて、あまり聴く事の出来ない、jukeの面白い可能性を追求しています。他の曲はよりアンビエントなものの、核燃料が引き起こす狂ったパラノイアのような雰囲気。日本の現状は決して上手くいっていないのに何故アーティスト達は対抗しないのか?と疑問に思っていたのですが、かなりの数が存在する事を知りました。それも一カ所に。ダウンロードはこちらから。

Stuff We Missed 2012: Nami Tamaki’s “Paradise”

曲を紹介する上で、自意識過剰にならないように、やましい楽しみを求めないように、心がけています。好きなものは好き。それ以上はないと思っています。何が「かっこいい」とか「本物」って意識する必要など無いと思いますし、純粋に好きな曲を聴きましょう。Make Believe Melodiesが「ベスト・オブ・2012リスト」をやらないのも、純粋に紹介した場合J-Popが大半を占めると思ったからです。そのような内容で共感を得る事は難しいですからね。でも、今年のJ-Popは凄く実験的で、まだそこまで有名じゃないアーティストも素晴らしい作品をリリースしてきました。まぁAKBなんかを紹介する場合はTumblrにしておきますが。 もしトップ20リストを作るならば玉置成実の”Paradise”を入れるつもりです。この作品は今年のJ-Popを説明するにはうってつけの作品だからです。再生数で言うと”Gangnam Style”の1/100くらいなので、知名度はまだまだこれからなのですが、そんなポジションにいるせいか実験的な事をやってもレーベルからもバックアップされていますね。この”Paradise”はGold PandaがJ-Popをプロデュースしたような曲。完全にエレクトロ・サウンドで、玉置成実のハリのある歌声が上手くマッチしています。キャッチーなコーラスゆえか何度聴いても飽きのこないこの作品は、J-popも音楽的に”like this???”になれるという事を証明していますね。誰の作品かを気にしなければ多くの人に気に入られるはずの、良くプロデュースされた曲です。。

Stuff We Missed 2012: Jappers Lately EP

淡く幻想的なFancy Booksのポップから暗闇で覆うようなThe Paellasのロックまで、東京のDead Funny Recordsの2012年は非常に強力でした。でもJappersのLately EPも是非聴いてみて下さいね。このグループのサウンドは溺れるようなFancy Booksのサウンドともファズの掛かったThe Paellasとも違い、クリアでもっとクラシックなロック/ポップを奏でています。”Settle Down”はとても有意義なリラックスタイム。シンプルな構成によってメインの部分が際立ち、曲の良さを効果的に引き出しています。タイトルトラックは”You Can’t Hurry Love”からの影響が感じられるものの、Jappersのヴォーカルはウイスキーを少量飲んだかのように若干荒々しいです。オリジナルの持つ軽快さは陰に潜みますが、それが彼等の個性であり良さなんです。

Stuff We Missed 2012: Timothy Work

Timothy Workが夏にリリースしたセルフタイトルのEPは、わずか4曲収録ながら幅広い音楽性を堪能する事ができます。そもそも、2012年に活躍したアーティスト達はジャンルの枠を飛び越える事が多かったですね。Moscow Clubもインディーポップからよりエレクトロなポップまでこなしていますし、Taquwamiの音楽性は常に変化しています。今回紹介するこのTimothy Work EPにはキャッチーな一貫したテーマ等は無いのですが、純粋に完成度の高い曲の集合体だと言えるでしょう。ミニマルなエレクトロ曲”London Echoes”に続くのは、My Bloody Valentineの”When You Sleep”のギターをよりやわらかくしたようなデリケートなインディーポップサウンドが特徴的な”Waves (You Heard)”。一筋縄にはいかないですね…と思ったとたんに次は色んな意味でエフェクトがかけられたラップが特徴的な”Hollywood!”が…最後の”Roll The Dice”は美しいコーラスとピアノが心地よく、オススメです。ダウンロードはこちらから。

Stuff We Missed 2012: stillsound

stillsoundは名前からも分かる通り、Toro Y Moiからの影響を隠そうともしてません。SoundCloudのプロフィールにもChaz Bundickは彼の”bro”だと書かれています…Jamesという17歳の高校生によるプロジェクトで、沖縄の那覇に住んでいるそう。不思議に思ったのでSoundCloudでメッセージを送ったら、「もう少し北のほうかな」と言ってたのですが…はたして本当に住んでいるのかは謎です。他のvaporwaveアーティストみたいに、日本を拠点にしてるフリをしてるのかもしれないですね。彼いわく、もともとはカリフォルニア出身で、現在は沖縄で勉強と音楽活動をしているそう。音楽的には「10年もクラシック・ピアノを習ってたから音楽理論は得意」と教えてくれたり、他には「猫が好き。ソバも好きで、特に沖縄ソバのスープと豚肉が好き」と教えてくれました。そしてもちろん、Toro Y Moiがお気に入りみたいです。 彼の初期の音源は特にサウス・カロライナ出身のそのアーティストから影響を受けていて、”Shine”や”With Me”の太いキーボードの音色やボーカルサンプルなんかはToro Y Moiのアルバム、”Causers Of This”を彷彿とさせます。まだ17歳との事なので、このような直球に影響を出した曲も仕方が無いでしょう。でも注目すべきは彼の個性を発揮した新しいトラックです。”Foot Stepps”ではToro Y Moiからの影響を取り入れつつも(特に”You Hid”)、よりミニマルに、かつスペースを意識した作りになっています。”Cool Tears”はよりスローで空気感を意識した作りに。もうちょっと速いけど”Reminds Me Of You”もオススメです。stllsoundはまだ17歳、しかも10年間のピアノ経験が。彼はこれからも注目していくべき若き才能と言えるでしょう。