Music

  • Glory Days: i-fls Residential Town Loneliness

    二年前、私が大都市東京ではなく三重県の山奥に住んでいた頃、アメリカから旅行で来ていた友達を人口80,000人くらいの街にある我が家へと招きました。その前には一週間程東京で過ごしていたのですが、この田舎では騒音も無く、お店も少なく。暇な時でも、スーパーに行くくらいしかやる事はありませんでした。そんなある日、友人は言いました。 「ここはミシガン州のフリントみたいだね。」 前に住んでいた場所の悪口を言うつもりはありませんが、確かに大きな世界から疎外されたような、小さい電車やマクドナルドくらいしかない場所でした。そのようなさみしい街の世界観をi-flsがニューアルバムResidential Town Lonelinessで表現しています。アメリカのレーベルZoom Lensから発表されたこの作品では、“Monorail”、“Used Bookstore Chains”、“After School”や “Local Line At Twilight”等、場所を連想させるタイトルの曲が並びます。シンセサイザーとビートのみで構成されていて、とても心地の良いサウンドが特徴的なのですが、i-flsの魅力はそれだけでは留まりません。高校生時代に感じる孤独感のような物をわかりやすく、ノスタルジックに描いています。小さい街をベースにしたこの物語は万国共通なのではないでしょうか。多くの人が共感出来るはずです。Residential Town Lonelinessでのi-flsはLullatoneとも共通点があります。Lullatoneもシンプルで感情的な音楽をやっているのですが、このデュオは幼少期のノスタルジアを思い起こさせる楽曲が特徴的で、i-flsはどっちかというと学生時代ですね。小さな街のもつ寂しさを美しく表現した、素晴らしい作品ですよ。

  • Glowing Corners: Sakasa’s Coin Bender EP

    文化の中心は東京だと思われがちですが、関西も同様に栄えています。それでも大阪や京都の印象が強いですよね。ここ2年くらいその2つの場所ではダンス・ミュージックが盛り上がっていましたし。かつての首都であり、大仏や鹿が有名な奈良はどうでしょうか?良いアーティストを多数輩出しているものの、あまりダンス・ミュージックのイメージはありませんね。でもそんな奈良からも最近Sakasaというアーティストが出てきて、Coin Bender EPでは前向きなビートやノイズを奏でています。”Let your body dance, and let your brain dance more,” と説明されるこの三曲入りEPからは、名古屋のHouse Of Tapesとも共通点を感じます。どちらもメンタルとフィジカル両方に響くので。一曲目のタイトル・トラックなんかは特にそうで、歯医者のドリルみたいな身震いしそうな激しいノイズでビートが構築されています。”Pond”では逆に柔らかな印象。華やかなシンセのレイヤーが乗っているビートがこちらも徐々に重なっていきます。体を動かすにも世界観にも浸るにも適した美しい曲です。

  • Fogpak #5: Featuring Picnic Women, OKLobby, PNDR PSLY, CRZKNY And So Many More

    去年リリースされたFogpak #4は、日本中から優れたダンスミュージックを集めた素晴らしい作品でした。でも21曲も収録されているので、多すぎると感じた人もいるかもしれませんね。 そして先週末には遂にFogpak #5がリリース。この最も影響力のあるダンス・ミュージック・コンピは何と32曲も収録していて、同シリーズの中で最長です。今の日本の音楽シーンで何が起こっているか理解するには打ってつけの、野心溢れる作品になっていますよ。ハイライトを決めるのは少し難しいのですが、やっぱり以前から紹介しているアーティストには安心感がありますね。Picnic Womenはジューク・ナンバー”Another Night”にジャズの雰囲気を加えていて、 OKLobbyの”Cryptid”は今までの作品の中でも特に出来が良く、最近リリースされた色々な作品よりも聴きごたえがあります。広島のCRZKNYによる”Cold Winter Warfare”には彼らしい、社会的なメッセージが込められています。 他にも少しだけハイライト。北海道のPARKGOLFはカラフルな “DON’T SLEEP…”で作品を序盤から盛り上げます。特にエフェクトが掛けられたボーカルがサイバー・ファンク的なオルガンの下で歌っている瞬間は感動です。おそらくDoopiioは”33rd Sadly”でDrakeをサンプリングし、Ninja Drinks WineはYusaku Haradaと…任天堂とタッグを組み、マリオのゲームの音楽とラップを上手く調和させています。Licaxxxは”Repeat”で彼女の女性ならではのボーカルを活かし、人間味をトラックに加えています。そしてこのコンピの代表格とも言えるPNDR PSLYも”Spinning Ouroboros”でプロデューサーとして素晴らしいビートを演奏しています。 このFogpak #5は長いものの、一度に多くのアーティストを知る事ができるのでオススメです。時間をかけてじっくりと聴きましょう。時間が無い人はこの記事を是非参考にして下さいね!ダウンロードはこちらから。

  • New Talking City 1994: Roll Dance She Take EP

    先週に大阪のTalking City 1994の新曲”Shine”を紹介したのですが、どうやらこの曲は先週末にリリースされたRoll Dance She TakeというEPのプレビューだったみたいです!3曲しか収録されてないものの、このバンドの新しい方向性をきちんと示唆した作品になってますよ。”Shine”からもわかる通り、Talking City 1994はファンキーなスタイルも演奏可能だと言う事を証明しています。タイトル・トラックはしっかりとしたベース・ラインと安定したボーカルが特徴的で、バンドの成長が伺えます。”Shine” のイントロ等に使われているシンセサイザーにもう少し工夫が欲しいものの、Roll Dance She Takeではより鮮麗されたTalking City 1994を聴く事ができますよ。試聴はこちらから。

  • Dead Funny Records Prep New Compilation Album Featuring The Paellas, Fancy Books, Boyish And More

    コンピレーション・アルバムはレーベルのカラーを提示するのに打ってつけな手段と言えるでしょう。サポートするアーティストからレーベルの特色が分かりやすいので。Dead Funny Recordsは大阪のThe Paellas、埼玉のFancy Booksや東京のJappers等、素晴らしいアーティストたちを輩出しているわけなのですが、今回のコンピに関してはレーベル自身のアイデンティティもちゃんと表現しています。この50分程のコンピレーションには、ギターを多用するロック・バンドが日本中から集められていて、少し激しめのPOP-OFFICEの”End Of Summer”から、それよりは甘めのOld Lacy Bedの”Little Girl”とHomecomingsの”Special Today”等、若干バラエティーがあるものの、明確な基準があります。Boyishは両者のコンピに参加しているのですが、アルバム全体を考えるとAno(t)raksとも違った音楽性になっていますよ。 Dead Funnyのハイライトの1つがThe Paellasなのは非常に納得しています。この大阪のグループは数年前から自分たちに最も適したスタイルを追求していて、聴く度に都会の朝(4時くらいかな?)を連想させてくれます。”Fall Even Further”ではボーカルの良さが際立ち、彼らの曲の中でも特に優れた作品だと言えるでしょう。コンピ1曲目のアーティストtalkはもっと注目されるべきだと思います。”In Refrain Rain”の跳ねるようなインディ・ポップはベルやコーラス等で味付けされ、淡く爽やかで、とても優しく心地の良い曲風です。福岡のHearsaysによる”The Blind”も非常に良く、日曜日の朝に聴きたくなるポップになっています。 Fancy Booksの”Nephogram”はこのDead Funnyコンピの中でも異端な存在感を放っています。ギターを使わずに、ボーカルと打ち込みのレイヤーで、幻想的で浮遊感のある世界を表現しています。どのレーベルにもこのような異なるテイストを持ち、新しい方向性を開拓してくれるアーティストが必要なんではないでしょうか。購入はこちらから、試聴は以下から。